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『密やかな結晶』小川洋子

講談社文庫

以前に小川洋子さんのことを「寡作な方だと思う」と書いてしまったけれど、実は
結構作品出ているようで…失礼しました。

不思議で、悲しい話。

まったく勝手な解釈だが、一番最初に消滅したものはこの島だったのではないか?
この島だって以前はもっと大きい陸と交流があったはず。それが一番初めに消滅し、
消滅した世界の中で人々はひたすら失いながら生きて行っているのではないかと。

しかし一番不可解な存在が秘密警察。
誰が何のために作ったのか、何故消滅したものは完全に失われなくては
ならなかったのか。
そして何故消滅がなされない人がいるのか。

記憶狩りの描写を見ると、記憶を失わない人は決して少なくはないらしい。
少なくとも「消滅しない方が悪」と決めつけるには無理があるくらいにはいると
思われる。
記憶狩りから免れた人がどれくらいいるのかはわからない。けれど、失われるまま
無くしていった人々がいなくなった時、無くさなかった人々がどんな世界を作るのか。
無くなったものを取り戻すのか。

決して重箱の隅ではない。
なんというか、こうしたことを考えたくなる作品なのだ。

小説が失われるのは怖い、度 ★★★★★
by happiness_riki | 2006-03-20 02:07 | *読書記録 作家あ行