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『黄金色の祈り』西澤保彦

文春文庫

「ミステリファンの間で、賛否両論の物議をかもした異色の青春ミステリ」

僕、の一人称で書かれるミステリの(作家にとっての)利点は、「僕」が
書きたくないこと、知らないことは書かないでいい、ということがあると思う。
また、「僕」からの情報しか得られないわけだから、大概の場合読者は「僕」の
考えや感じ方を支持するだろうし(「僕」がイヤな奴だと思った人は、読者も
イヤな奴だと感じる)、「僕」から見た視点を信用してしまうのではないだろうか。

そして、まんまとハマるわけだ(笑)

誰でも自分の身は可愛い。なるべくなら傷付きたくないし、できれば特別な方に
いたいと思うだろう。

世の中には「すごい人」と「普通の人」がいて、どうして自分はすごい人じゃ
ないんだろう、と私も思ったことがある…。なまじ、周りにすごい人がいたり
すると、余計に自分の普通さが悲しくなったりするのだが…。

この話の「僕」は自分がすごい方の人であると、ないわけがないと、ひたすら
思い続けていて、その姿はなんだか可哀想とすら思えるほどだ。
もう一度言うけど、誰だってそういう部分はあるのではないだろうか。そこから
諦めたり、折り合いをつけたりをできるかできないかは、それほど大きな隔たりが
あるとも思えない。
いやむしろ、そうでありたい自分のために、ひたすら新しいことにチャレンジ
し続ける根性(と言ってもいいと思う)はすごいことかもしれないし。その根性を、
本当に自分が好きなことにだけ使えたら、良かったんだけど、ね。

ミステリとして、の感想は、そりゃ「えー…!」だけど(笑) 
ミステリとして読まない方が、っていうのは作品に対して冒涜になるのかも
しれないが、それでもあえて、ミステリとしてより、自分で気がつかない傲慢さや
思い込みを振り返る機会を与えてくれる作品として読むことを薦めたい。

…度、が思い付かないので今回は休み
by happiness_riki | 2004-12-04 00:51 | *読書記録 作家な行